すべて終わりだ、と奴らは言う。
俺は自らが選んだ道を歩んできた。それはありふれた道だったかもしれないが、自らの選択に後悔するつもりはなかった。きっと、俺の前にこの道を通った人間はたくさんいるだろう。何人かは、途中で挫折したかもしれない。もしくは、思いがけない幸福を見つけて、他の道に移ったかもしれない。しかし、俺は外れるつもりはない。この道の行けるところまで行くと、とうの昔に決めていた。
すべてお終いだ、と奴らは言う。
俺は、前方に人影を見た。きっと俺より先にこの道を選び歩み始めたのだろう。しかし彼の歩みは遅く、簡単に追いつくことができた。どうやら、途方に暮れている様子だ。この先に途轍もなく高い壁が立ちはだかっているらしい。それは、世の中の見栄と欺瞞が作った壁だ、と彼は嘆いた。
もうすべて終わりだよ、と奴らは言う。
みんな自らの意思で道を選ぶはずなのに、ほとんどは恐怖を抱いている。それを俺は知っている。俺も、今までいくつ恐怖を抱いたかわからない。この道は、誰かの手によって用意された道ではないか、本当に俺が選ぶべき道なのか、その選択は正しいのか。誰も答えを知らない恐怖に、俺たちは戸惑う。先には何があるのか、知ることはできない。時間が与える試練に、俺たちは立ち向かわなければならない。
もうすべてお終いだよ、と奴らは言う。
しかし、今俺たちはそれとは違う恐怖に立ち止まっている。くだらない世の趨勢のために作られた壁を前に、俺たちは歩みを止めている。見栄と欺瞞の壁は、高く強固だ。遥か上では、その壁を打ち立てた張本人が醜く唾を吐き散らしている。彼らは、俺たちの前に立ちはだかる壁に気がつかない。歩みを止める恐怖がいかばかりか、気がつかない。
もうお終いだよ、と奴らは言う。
俺は、古い時代に心を奪われる。壁などなかった時代に。そして決して、現在に心を打ち明けたりはしない。この世は、くだらない傾向で滞っている。くだらない正義のために、俺たちは足止めされている。
もう、お終いだ。
俺は神に感謝する。この世が終局に向かっていることを感謝する。この高く醜い壁ごと、この世を破壊できることを。俺は感謝する。
俺は、この道を行くと決めたのだ。
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